角山智の「株本執筆記」
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グレアムはナンピン買いをすすめているの? 02月26日
もう一つ、メールでいただいたご質問があります。
【質問】
バリュー投資では、ナンピン買いをするべきという理論もあるようで、実際にそのような形で投資をしておられる方もおられるようです。この「バリュー投資だからナンピン買い」という理論は、そもそも誰が唱えた理論なのでしょうか。
例えば、グレアムやバフェットが、ナンピン買いをしていたとか、そのようなことが有るのでしょうか。
【回答】
まず、ナンピン買いの定義をはっきりさせておきましょう。
たとえば、A社に投資を行う場合、投資総額の何%程度まで買い付けるかを先に決めます。これをポジションといいます。
ナンピン買いとは、株価が下落したからといって、ポジションを超えて買い付ける行為を指します。ポジション内で複数回に分けて買い付けるのは、単なる「買い増し」であり、ナンピン買いに当たりません。
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今回は、グレアムについてお答えします。
グレアムの名著『賢明なる投資家』には、次の記述がありました(186ページ)。
例えば、A&P社を1937年にその過去5年間の1株当たり利益の12倍、つまり80ドル前後で購入していたとしよう。
その後の36ドルまでの株価下落が、投資家にとって大したことでないなどというつもりは毛頭ない。注意深く情勢を調べて、計算ミスを犯していないかを確かめるのが賢明であろう。
しかしその結果、思っていた通り、自分の投資が間違いでなかったことを確信したならば、証券市場の一時的な気紛れとして相場の下落を無視してもよいのだ。
また、もしも資金と勇気を持ち合わせていれば、状況を逆手に取って割安な株価で買い増すこともできるのである。
ここで、グレアムは「株価が下がった場合、自分の投資判断が間違っていなかったかどうかを確認するように」述べています。行間を読めば「もし、投資判断を間違えたのあれば、売りなさい」といっているのです。
その上で、条件付ながら、買い増しを認めています。「もしも資金と勇気を持ち合わせていれば」という記述より、ナンピン買いに当たらないことは明らかです。
『賢明なる投資家』をざっと読み返してみましたが、他にもナンピン買いをすすめるような記述は見当たりませんでした。
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ご質問の「バリュー投資だからナンピン買い」という理論は、この部分を曲解しているとも考えられます。
そして、ナンピン買いにより損失を拡大させていく投資家に限り、グレアムの「株価が下がった場合、自分の投資判断が間違っていなかったかどうかを確認するように」という警告を無視しているのではないでしょうか。
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「貯蓄から投資へ」のスローガンは誰が言いだしっぺなの? 02月21日
今回は、メールでいただいたご質問です。
【質問】
「貯蓄から投資へ」という政府のスローガンが、評論などで批判されたり批評されたりすることがよくあるのですが、これはいつごろにどのような形で言われたもので、元々どういう意図で言われたものなのかがよくわかりません。
【回答】
政治的なことには深入りしたくないので、簡潔にお答えします。
●いつごろ ・・・2001年6月
●どのような形で・・・小泉内閣の「骨太の方針」中にて
●どういう意図で・・・証券市場の活性化のため
「骨太の方針」とは、2001年6月に答申された「経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」のことです。
「貯蓄から投資へ」の該当箇所は次のとおりです。
(i)証券市場の構造改革
証券市場の活性化のためには、企業が活性化し、収益力を高めることが基本である。しかし、同時に、市場監視・取締体制の充実、インサイダー取引や株価操縦等不公正取引に対するルールの明確化、会計基準・会計監査を一層厳格化することなど、インフラの整備も必要である。さらに、個人投資家の市場参加が戦略的に重要であるとの観点から、その拡大を図るために、貯蓄優遇から投資優遇への金融のあり方の切り替えなどを踏まえ、税制を含めた関連する諸制度における対応について検討を行う。
金融システムの構造改革という観点からは、銀行の株式保有のリスクは適切に規制されるべきである。こうした施策は、銀行や企業の株式持合いの縮小を通じて、株式市場の市場メカニズムを一層発揮させることにもつながる。ただし、その場合、保有株式の売却が、短期的には株式市場の需給等を通じ、株価水準によっては金融システムの安定性や経済に好ましくない影響を与える可能性を考慮し、一時的な仕組みとして、銀行保有株式取得機構(仮称)の設立に向け早急に検討を進めなければならない。
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繰延税金資産って何? 02月16日
【質問】
繰延税金資産って何?
偉い先生の解説を読んでみたけど、よく分からなかった。
【回答】
実は、私も最近までよく分かっていませんでした(笑)。
会計的には間違っているかもしれませんが、簡単に説明してみます。
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いよいよ確定申告が始まりましたね。
私のような個人事業主は「いかに、支払う税金を少なくするか」に頭を悩まします。税金を少なくするには、費用を増やせばいいのです。この点は、上場企業といえども、まったく同じです。
ところが、税務署としては、何でも費用として認めてしまえば、徴収できる税金が少なくなり、商売あがったりです。そこで、企業との間で「費用として認める、認めない」と白熱のバトルが展開されるわけです。
その中に「今期は費用として認めないが、将来的には認めよう」というものがあります。
何らかの損失を予見して、引当金を多めに(会計ルール以上に)積んだ場合などが該当します。実際には、損失が発生した時点で費用として認めてもらえます。
このようなとき、バランスシートに計上されるのが「繰延税金資産」です。「将来的に戻ってくる税金だから、資産だ」という考え方です。
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ただし「繰延税金資産」には注意点があります。費用として認めてもらえる決算期に、十分な収益をあげておらず、支払う税金がなければ(あるいはないに等しければ)相殺できないのです。
なぜなら「売上 - 費用 = 利益」であり、税金は利益から払われるからです。
ゆえに、赤字に転落した企業では、繰延税金資産の取り崩しによる損失が拡大して「泣きっ面に蜂」状態となります。
そういうことから、業績不振企業の繰延税金資産については「実体価値がないに近い」と考えておきましょう。
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ここまで書いて、株式譲渡損失の繰越控除を思い出しました。
たとえば、昨年、株で500万円の損をした投資家は3年間の繰越ができます。今後3年間のうちに500万円の儲けを出せば、50万円(税率は10%で計算)が戻ってくることになります。
この場合の50万円は、いわば繰延税金資産のようなものです。ただし「絵に描いた餅」で終わらせないためには、3年間で500万円以上を稼がないといけません。
もし、株で500万円の損をして「資産が50万円増えた」と考えられるのであれば、超ポジティブシンキングな投資家です(笑)。
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のれんって何? 02月12日
今回は、のれんを取り上げました。
【質問】
のれんがよく分からない。いったい何のこと?
【回答】
純資産100億円のA社があったとします。
A社を300億円で買収した場合、純資産を上回る200億円は、A社の技術力なりブランド力なりの「超過収益力」を買ったことになります。
この200億円は、のれんとしてバランスシートの無形固定資産に計上されます。
のれんでやっかいなのは、日米で会計処理が異なることです。
日本会計基準・・・20年以内で規則的に償却(=費用化)
米国会計基準・・・収益力が落ちたときのみ償却
ただし、日本会計基準においても、のれんは減損処理の対象となります。買収先が大幅減益となった場合「超過収益力」も減少してしまうからです。
ということは、景気が良くて株高の時代にM&Aを行った企業のバランスシートには少なからずののれんが計上されており、不況に突入した昨今では巨額の減損損失を発表する恐れがあります。
のれんのバランスシートに占める割合が大きい企業では、特に注意が必要です。
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有利子負債はバランスシートのどこに書いてある? 02月06日
【質問】
有利子負債はバランスシート(貸借対照表)のどこに書いてある?
【回答】
たしか、セミナー終了後だったと思います。
浮かない顔をして質問に見えられた方がいました。
あのう「有利子負債の多い会社に気をつけろ」とおっしゃっていたので、貸借対照表にて有利子負債という科目を探しました。
ところが、見つかりません。
目を皿のようにして、何度も何度も探したのですが、どこにも載っていないのです。どうしてでしょうか?
答えを知っておれば、笑い話に聞こえる内容ですが、ご本人にとっては大問題だっだようです。
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有利子負債とは、利息の支払いが必要な負債です。次のような科目が該当します。
●短期借入金
●長期借入金
●社債
よって、貸借対照表には有利子負債という科目はなく、該当する負債を自分で足して計算することになります。
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ここまで読まれると「じゃあ、利息の支払いが不要な負債もあるの?」と思われるかもしれませんね。
実は、利息の支払いが不要な負債はたくさんあります。会社が事業を行う上で発生することから営業負債と呼ばれます。
代表的なものは、ツケで買ったものの支払いです。クレジットカードの1回払いは利息がかかりませんが、同じ理屈です。
●買掛金
●未払金
また、将来の支払いに備えた引当金にも利息はつきません。
●賞与引当金
●退職給与引当金
このような営業負債と区別するために、いわゆる「借金」は有利子負債というグルーピングがなされるわけです。
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